欠陥を巡るホンダの対応 − 概要版

 

 

■ ホンダ側と会うまで

クローセンシステムに設計ミスがあることを ホンダに伝えたのは、平成3年2月のことであった。 設計段階で絶縁対策を忘れるという明白なミスであり、否定しようのないものであった。
この時すでに、1年以上前から 数千個(ホンダによれば1801個)の欠陥品がユーザーに渡っていた。 ホンダからは 「既に販売された製品に対して 何らかの修理対策を取る」という言明があった。

しかし、その8ヶ月後の10月31日、欠陥製品が全く放置されていることを知った。 ホンダには抗議の手紙を出し、修理対策を取るべき旨伝えた。
数日して、お客様相談部のA氏から電話があり、会って話したいとのことであった。

私の方は、会って話す必要性は全く感じなかった。 クローセンシステムの欠陥は修理対策を取る以外ないもので、いったい何を話すことがあるのだろうと思った。 A氏には 「話があれば電話で済ませましょう」と伝えた。

その後、またA氏から電話があり、「誠意を伝えたいので是非会ってくれ」と言って来た。 クローセンシステムの欠陥で 私に迷惑をかけたことに、誠意を示したいようであった。 しかし、私としては 直接会う必要性を感じなかったので、電話で済ませることを希望した。

数日して、また電話があり用件は同じだった。 ホンダ側と会うことは気が進まず やはりお断りした。 しかし、「直接会わなければ誠意が伝えられない」と何度も言われるに及んで、会わない訳には行かなくなった。 「誠意を無下に拒むのもどうか」という気になってしまった。

この後、ホンダ側担当者と会うことになるのだが、「誠意を伝えたい」という話は全くの嘘であることを知った。 それは、私を話し合いの場に誘い出す為の口実でしかなかった。 ホンダ側の狙いは、私に直接会って修理対策の要求を封じることであった。 話し合いの場では、やり込める、押さえ込む、黙らせるという対応を受けることになった。


■ 最初の話し合い − ホンダ曰く 「設計ミスはあっても修理の必要なし」

平成3年11月16日、下の名刺のA、B両氏が 書記役の方と共に私の家にやって来た。

設計ミスは明白なので 担当者も否定することはなかった。 しかし、修理対策の必要性を認めようとはしなかった。
彼等が言うには、「設計ミスがあっても ユーザーに損害も迷惑も与えていない、だから 修理対策を取る必要はない」とのことであった。

彼等は、設計ミスによって暗電流が何倍にもなることを認めながら、ユーザーに被害は出ないと主張した。 設計ミスによって格段にバッテリーが上がり易くなることを認めながら、ユーザーがバッテリー上がりを起こすことを認めようとはしなかった。

議論が破綻しようが矛盾しようが、担当者はユーザーの被害を認めなかった。 それを認めれば、修理対策を取らざるを得なくなるからである。
欠陥製品の放置を正当化する為に、「設計ミスはあっても ユーザーに損害も迷惑も与えていない」という屁理屈を押し通した。

ホンダ側の嘘、屁理屈は凄まじかった。 私が、被害が出る可能性や修理対策の必要性を話そうものなら、ことごとに嘘、屁理屈を浴びせかけた。 私自身バッテリー上がりを起こし、それを証明するJAFロードサービス書も持っていたが、それも全くの無視、「損害も迷惑も与えていない」と言い張った。

後にも先にも、これほど支離滅裂の話し合いをしたことはないが、担当者を責めるのは酷であろう。
彼等によれば、この問題は役員レベルに上がっているとのこと。 従って、欠陥放置は会社上層部の決定であり、担当者がその方針に従おうとすれば、必然的に嘘、屁理屈を並べざるを得ない。 損な役回りを引き受けられたわけである。

ところで、嘘と言えば、クローセンシステムに設計ミスがあるのは アコードインスパイア用だけだとの話があった。 しかし、後に これは嘘であることが判明。 実際には、アコードやインテグラ等、他車種のクローセンシステムも同じ欠陥を持つのである。

以上に 1回目の話し合いの模様を書いた。 ホンダ側は「誠意を伝えたい」と言って 私に家にやって来たのであるが、その対応は不誠実そのものであった。


■ 2回目の話し合い − ホンダ曰く 「市場措置を取りました」

1回目の話し合いでは 私が最後まで折れなかった為に、もう一度話し合いを持つことになった。 この時には、私の方でも、話し合いの必要性を感じるようになっていた。 というのも、ホンダは欠陥の放置を決め込んでおり 修理対策を取るように働きかける必要があったからである。

12月16日、A、B両氏の来宅があり、2度目の話し合いを持った。
ホンダ側に方針転換があったようで、もはや 「修理対策の必要性なし」との主張はなかった。 それどころか、「市場措置を取ったので納得して下さい」との話であった。

担当者によれば、「クローセンシステムに問題があることを 販売店サービス会議で口頭にて伝えた」とのことであった。 販売店サービス会議とは、プリモ、クリオ、ベルノの各系列ごとに 販売店のサービス責任者を集めて 月一回開かれる会議であるが、この会議で 「バッテリー上がりで販売店に相談があった場合には クローセンシステムをチェックして下さい」と 口頭で伝えたとのことであった。

実際には、こんな措置は 市場措置の名に値しないであろう。
販売された製品に欠陥が判明した時には、ユーザーに直接連絡を取るのがスジであろう。 少なくとも、そのように努力しなければならない。 それが、メーカーの責任であり、ユーザーに対する礼儀である。

しかし、ホンダの市場措置なるものは、販売店にちょろっと口頭で情報を流すだけである。 このような市場措置では、大半のクローセンシステムが修理されないままに終わることは明白である。
当然ながら、ホンダの対応には納得できなかった。 もっと きちんとした対策が必要であることを主張した。

しかし、強く主張することには ためらいがあった。 それと言うのも、強行に主張すれば、さらに話し合いが必要になり、また時間を潰すことになるからである。 ホンダとの話し合いは 時間的、精神的に負担になっていて、これ以上の話し合いは避けたかった。

結局のところ、ホンダ側から、「この措置で納得して下さい」と言われ、その場での返答は保留とした。 ホンダの措置に不満ではあるが、黙認してしまおうという思いがあった。


■ 市場措置の話は嘘同然 社長に直訴

担当者が帰った後、販売店に電話をして クローセンシステムのことを聞いてみることにした。 というのも、どのような内容で伝えられているのか、関心があったからである。
しかし、驚いたことに、いくつもの販売店に問い合わせたが、クローセンシステムの設計ミスについて知っている店はなかった。

当然、市場措置の話は嘘ではないか、との疑念が出る。 しかし、仮に本当に市場措置を取ったと言うのなら、そのずさんさは驚くばかりである。 どちらを取っても問題である。

私は、社長宛に手紙を書くことにした。
担当者と話し合うことは徒労でしかなく、嘘と屁理屈にはうんざりだった。 欠陥放置は役員レベルで決定されており、担当者に何を言っても無駄であった。 彼等が嘘や屁理屈を言わざるを得ない状況に追い込むだけであり、それを避ける為にも、直接社長に訴えることにした。

実際、状況から言って、社長の決断が残されているだけであった。 設計ミスはホンダ側も認めているし、そのミスによってユーザーに被害が出ていることも明白。 修理対策が取られるか否かは、社長の決断ひとつであった。
従って、社長にこの問題を知らせれば、そして、社長が人並みのモラルを持ち合わせていれば、それなりの指示が出るはずであった。

12月19日、社長宛に手紙を出した。 社長御自身に読んで頂けるようにとの配慮から、御自宅宛に出し、宛名の敬称も「社長」ではなく 「様」にした。 クローセンシステムに設計ミスがあることを知らせ、修理対策の必要性を訴えた。

12月26日、相談部のA氏から電話があり、社長宛の手紙が相談部に回されて来た旨伝えられた。 そして、相談部大阪の所長が一度会って話したいとのことであった。


■ 3回目の話し合い − ホンダ曰く 「欠陥などなく 修理対策を取る意思もない」

平成4年1月14日、相談部所長がA、B両氏と共にやって来た。

しかし、彼等が言ったことは、「クローセンシステムのことは欠陥とは思っていない。修理対策を取る意思もない」という完全な居直りであった。 本社のサービス会議で決定された方針であり、私が何を言っても無駄、これ以上話し合いに応じない旨通告された。

嘘も屁理屈も通用しないとなると、ホンダ側としては居直るしかなかったようである。 彼等の物言いは、私を全くクレーマー扱いするものだった。


■ ホンダは消費者センターに虚偽の説明

その後二週間ほどして、私は近所の消費者センターに話を持ち込み 助力をお願いした。 「ホンダが欠陥を放置したままにしているので、修理対策を取るように働きかけて欲しい」と訴えた。
何日かして、センター員から報告を受けたが、とんでもない話を聞かされることになった。

センター員がホンダの方に連絡を取ったところ、A氏がセンターに出向いて来たとのこと。 そして、「クローセンシステムの不具合については 既に修理対策を取ってあり 問題は解決済み」との説明を行った、というのである。

センター員は どちらの言い分を信じたであろう。 ホンダと言えば国際的な優良企業であるし、私はただのユーザー。 信用度から言えば ホンダの方がはるかに上で、私が難癖を付けている格好になってしまった。

残念なことに、担当のセンター員は車や電気について知識のある方ではなかった。 ごく普通の中年女性という感じで、どんな嘘でも屁理屈でもでっち上げてくる企業に対抗できるとは思えなかった。
結局、消費者センターを通してホンダに働きかけるのを断念することにした。


■ 自動車評論家の働きかけで市場措置が取られることに… しかし、単なる見せかけの措置だった

その後、私は自動車業界に通じた人に相談してみたいと思うようになった。 それと言うのも、ホンダの対応を見ていると、欠陥を放置することは業界の常識のように思えてきて、その辺りの事情を知りたかったからである。

そこで、4月になって ある自動車評論家の方に相談した。
その方のご意見は、当然と言えば当然であるが、私の言い分を支持するものであった。 そして、有難いことに、ホンダの方に市場措置を取るように働きかけて下さった。

それによって対策が取られることになり、平成4年8月 ホンダ側から下の書面が送られてきた。 ( 書面はワープロ打ちで印鑑も押されていないので封筒を添えた。 なお、この書面は月刊誌に掲載された。)

しかし、市場措置の内容はと言えば、「お客様が販売店に来場された機会をとらえ、当該クローセンシステム(リア)が装着されている車に対して、暗電流防止の処置を講じる」だけのことである。

ずさん極まりない措置であることは明らかである。 欠陥クローセンシステムが修理されるとしても、偶然販売店に来たものだけが対象とされる。 修理は、たまたま販売店に来ることが前提なのである。 さらには、たまたま販売店にやって来たとしても 外見上全く分からないのである。 下の画像はクローセンシステム装着車であるが、センサー類はバンパー内側に取り付けられる為 全く気付かれることはない。

さらに言えば、後に判明したところでは、販売店には虚偽説明がなされているのである。 「販売店に確実に本件の内容を伝えるために販売店まで用品サービスニュースを発行した」と記されているが、クローセンシステムの欠陥は伝えられてはいない。 設計ミスにより全ての製品で電気が流れ放しになっている事実は隠され、リレー(スイッチ)の故障によって電気が流れ放しになることがあると伝えられたのである。
このような軽微な問題にすり替えられれば、まともな市場措置など期待すべくもないであろう。

結局のところ、上の書面の措置では、針の穴を通って来たものだけが修理され、ほとんど全ては修理されないままに終わる。 ただの見せかけの措置であり、実質上は放置と言って良い。 「対策は取ってある」と言い訳する為だけの措置、放置をカムフラージュする為の措置である。

このような欺瞞的な措置であるにもかかわらず、書面の末尾 「○○様のご理解を頂けるものと確信しております」と胸を張る。
書面には 話し合いが3度なされたことが記載されているが、ホンダ側がどれほど酷い話を繰り広げていたか、想像がつくであろう。


■ 問題が記事になり ホンダは慌てて取り繕う

実は、その当時、ある月刊誌の記者から クローセンシステムの問題を記事にしたいという申し出を受けていた。 その記者が、4月下旬に自動車評論家の方を取材訪問した際、私の問題を紹介されたとのことであった。
渡りに船のような申し出であったが、しばらく待ってもらうことにしていた。 評論家の方の働きかけに ホンダがどう対応するか、見定めておきたかったからである。

このような状況の中、ホンダ側からの書面は 相も変わらず無責任さを示すものであった。 私は記者の方に連絡を取り、掲載をお願いすることにした。
こうして、クローセンシステムの問題が平成4年11月号(9月26日発売)の記事となった。

  

記事の内容は、設計ミスについて述べた後、欠陥製品に対するホンダの対応を記載、そのような対応で問題ないのかを問うものであった。 さらに、クローセンシステムのユーザーに 編集部まで連絡をくれるように呼びかけてもいた。

さすがにホンダ側も 「誤魔化しきれない」と判断したようである。
発売日の翌日、ホンダの方に記事について問い合わせてみると、「事実関係は記事の通りで良いようです。ホンダと致しましては問題のあった製品に対して改善対策を取る方針です」との返答。 返答が即なされたことから察すれば、問い合わせに備え対応が用意されていたようである。

私としては、一件落着との思いであった。 改善対策と言えば、リコールと同様、ユーザーに直接連絡を取って無償修理するものである。 クローセンシステムの設計ミスに対して改善対策が取られるのなら、文句はなかった。
それにしても、問題が公になった時のホンダの豹変振りには驚かされた。 企業の表裏を露骨に見せられることになった。

また、この時期、ホンダは運輸省(国土交通省)にクローセンシステムに関する報告を上げている。 このことは、このホームページを始めて後 国土交通省からのメールで知った。

    

国土交通省によれば、平成4年10月、クローセンシステムの不具合に対して市場措置を取る旨、ホンダから報告を受けたとのことである。
月刊誌は11月号と言っても 実際の発行は9月26日、国土交通省への報告は その直後である。 ホンダが慌てて取り繕ったことがうかがえる。

このように、月刊誌11月号の記事によって事態は急転することになったが、月刊誌に関しては まだ続きがある。 2ヶ月後、平成5年1月号でもクローセンシステムのことが取り上げられ、二人のユーザーの体験談が掲載されている。

記事によれば、やはり、ユーザーはバッテリー上がりを心配していた。 ディーラーに相談してもクローセンシステムの欠陥は分からず、バッテリーの問題として片付けられていた。 一人は何度も相談し、バッテリーの交換を勧められていた。 「古くもないバッテリーの交換は非常に不満だった」と記載されている。 このような状況の中、二人は11月号の記事を読み 欠陥の事実を知ることになった。

この体験談を見れば、それまでのホンダの市場措置なるものが インチキでしかないことが分かる。 ユーザーが11月号の記事をディーラーに提示しても、ディーラーはクローセンシステムの欠陥を認識できなかったとある。 メーカーに問い合わせするなどして やっと欠陥の事実を知るという有り様である。

体験談のふたりは、たまたま記事を見た為に修理を受けることが出来た。 記事を見なければ、バッテリー上がりを心配しながら車を使い続けることになった。
クローセンシステムの大多数のユーザーは記事など見なかったはずであり、これらのユーザーの為に きちんとした修理対策は当然に必要であった。

この1月号の発行の後、私はホンダ相談部に電話をして、「改善対策の話はどうなっているのか」を尋ねた。 対応に出たのはA氏であったが、「現在、問題のあったクローセンシステムの購入者をリストアップしています」とのことであった。
改善対策が表明されてから2ヶ月以上も経っているのに まだそんな段階なのか、という思いがよぎったが、まさか改善対策が反故にされようとは全く思ってもみなかった。


■ 改善対策の話は反故にされていた

クローセンシステムのことは てっきり片付いたものと思っていたが、平成8年になって改善対策が取られていないらしいことを知った。
ちょうどその頃、自動車業界の紛争処理機関として自動車製造物責任相談センターなるものを知り、一度相談してみることにした。

平成8年5月9日、電話で事情を話すと、「ホンダに対して改善対策を取るように働きかけることは出来ませんが、ホンダがどのような対応を取ったのか調べることはできます」とのこと。 そこで、調査を依頼することにした。

5月13日、ホンダ相談部の かつての担当者A氏から電話があった。 私に報告するよう、相談センターが取り計らってくれたようである。
この電話では、やはり改善対策が取られていないことが判明した。 不具合についての情報を販売店に流す以上のことはしていないとのことであった。


■ それ以降 今日までのこと

それ以降 今日(平成14年10月)まで、私がホンダ側と接触を持ったのは一度だけである。
平成11年8月24日、ホンダ相談部に電話をし クローセンシステムの欠陥の件でホームページを開く旨を伝えた。 そして、「公平を期す為ホンダ側の言い分も掲載したい」と伝え、2、3の質問についても、書面での回答をお願いした。

9月上旬に書面が送られてきたが 回答が十分ではなく、再度の返答を求めたところ、10月上旬にも書面が送られてきた。 これら書面については 約束通りにホームページに掲載させて頂いているが、以降ホンダ側とはどのような接触もない。

しかしながら、機会があれば ホンダに聞いてみたいことが一つある。 それは、「クローセンシステムの欠陥についてディーラーに事実を伝えたか」ということ。 それと言うのも、比較的最近になって ディーラーの間に誤解があることを知ったからである。 それは、クローセンシステムで電気が流れ放しになるのは リレー(スイッチ)が故障する為という誤解である。

クローセンシステムの欠陥は、決してそのような問題ではなく、設計段階で絶縁対策を忘れた為に 全ての製品で電気が流れ放しになっているのである。 しかしディーラーの間では、リレーが故障して電気が流れ放しになることがあると誤解されている。 製品は悉く欠陥品であるのに、故障が出るという軽微な問題にすり替えられているのである。

複数のディーラーにそのような誤解があるとしたら、メーカー側がそのように伝えたと見るべきではなかろうか。 最後の最後まで、ディーラーにもユーザーにも事実は伝えられなかったようである。 機会があれば、直接ホンダに確認してみたいと思う次第である。

( 注 )
設計ミスにより全ての製品で電気が流れ放しになっている事実を隠し、単なるリレーの故障問題にすり替えた疑惑については、平成14年11月、ホンダへの質問状の中で尋ねてみた。 詳しいことは、トップページ目次の「終わりに − ホンダへの質問状」にあります。

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