お金を巡っての話

 

 

■ 文句も言わず 補償も求めず しかし その8ヶ月後

平成3年2月21日、クローセンシステムに設計ミスがあることを ホンダに通知。
数日して ホンダ大阪相談部K氏より電話があり、設計ミスを認めた上で 謝罪の言葉があった。

私は、設計ミスの為にバッテリー上がりを起こしたり 充電器を購入したりしていた。 また、バッテリーが上がり易い原因を調べる為 お金も時間も費やしていた。
従って、ホンダに対して文句のひとつも言いたいところであった。 ミスの内容から言えば、絶縁すべきところを絶縁し忘れていたわけで、ずい分不注意な うっかりミスとの印象があった。 内心では 「お粗末なミスで多くの時間を無駄にされた」という思いがあった。

しかし、一方で、「誰にでもミスはあるので仕方がない」という思いがあり、結局、一言の苦情も言うことはなかった。 K氏によれば 「既に販売された欠陥品には修理対策を取る」とのことで、きちんと対策を取ってもらえれば それで良いと思った。

ところで、月刊誌の記事には、この当時 設計ミスを見つけた御礼として5万円の商品券をもらったとか、電流計等を買い取ってもらったと書かれている。 しかし、これは記者の方の勘違いで、ずっと後の出来事である。 取材の際、私が時期をはっきり伝えなかった為に 思い違いをされたようである。

ともかくも、ホンダからは 電話で簡単な謝罪があっただけである。 ホンダが何かをしてくれたということはなく、私から何かを要求したこともない。 ホンダにもディーラーにも 一言の苦情も言うことはなかった。

しかし、その8ヶ月後の10月31日、欠陥が放置されたままであることを知って、かなり頭に来た。 抗議の手紙を書き 修理対策を取るべき旨伝えたが、その手紙の末尾に 「ホンダ側の落ち度で被った損害を補償して下さい」と書き加えた。 ユーザーの信頼を裏切り 欠陥を放置するような企業に 温情をかけることもないと思った。


■ 設計ミス判明までの負担

ここで、クローセンシステムの設計ミスが判明するまでの間、どれ程の出費をし どれ程の時間を費やしたのかに触れておく。

実際に出費した金額は 2万数千円程度。 内訳は、充電器 テスター 比重計 アコードインスパイア用整備マニュアル 交通費等である。 私は物持ちの良い方なので、きちんと領収書やクレジットカードの控えを保存していた。

しかし、私にとって負担だったのは、このような出費よりも 多くの時間を費やしたことである。 バッテリー上がりでJAFの救援を受け バッテリーが上がり易いことをはっきり自覚した平成2年3月上旬から、クローセンシステムの設計ミスが判明した平成3年2月下旬までの ちょうど1年の間に、合計200時間は費やしたであろう。

ディーラーには この件で計9回出向き、他のホンダクリオ店にも2軒行き、バッテリー上がりの相談等で多くの時間を潰した。
テスターを入手するのも容易ではなかった。 自動車を調べるテスターとしては、電流 電圧 抵抗が測れること、さらには、ジェネレーターB端子の電流測定の為 数十アンペアの直流が測れることも必要。 このような条件に合うテスターを求めて いくつもの電器店を回った。 結局、大阪の日本橋という電気街まで出かけ、やっとニノミヤの電子工作のフロアで見付けた。

しかし、何と言っても、一番時間を費やしたのは 車の電気関係を調べる作業であった。
私は機械工学科を卒業したが、車についての知識はなく、図書館や本屋で車の電気関係を調べた。 また、アコードインスパイア用整備マニュアルは 5センチ近い厚みの本であるが、全て目を通し 車を点検した。

今から思えば、原因を探る上でのネックは、適正な暗電流値(キーOFFでの電流値)が分からないことであった。 それが分かっていれば200時間も費やすことはなかった。
バッテリーが上がり易いとなると、一つの原因として 暗電流の多さが疑われる。 しかし、暗電流を測定しても、適正値が分からなければ どうしようもない。 整備マニュアルには多くのデータが載っているが、暗電流についての記載は全くない。 ホンダ相談部に電話で尋ねても、相談員も正確なことを知らなかった。 具体的に55mAという数値を出しても、多過ぎるという指摘もなかった。
結局、バッテリーが上がり易い原因を 暗電流以外のところに求め、多くの時間を無駄にすることになった。

ところで、このように自分でバッテリー上がりの原因を調べたのは、何も好き好んでのことではない。 そうする以外なかったからである。
経緯を振り返ってみると、バッテリーが上がり易いということで、ディーラーに何度も相談に行ったが、原因が分からないまま しまいに「気にしすぎ」とまで言われていた。 その後 別のホンダクリオ店二軒にも相談に行ったが、ほとんど相手にされなかった。 そこで自分で調べる以外なかった という経緯がある。
ホンダ製品に欠陥があり、ホンダ販売店が対応できなかったわけで、100パーセントホンダ側の落ち度である。


■ 最初の話し合い

さて、私からの抗議の手紙を受けて ホンダ側担当者3名が私の家に来られたのは、平成3年11月16日のこと。
この時の話し合いは もっぱら修理対策に関することであった。 私が修理対策を要求し ホンダがそれを拒否する、そのやり取りで時間の多くが費やされた。

補償については 大まかな話しかしなかったが、私が何度もディーラーに相談に行っていたことを、ホンダ担当者はディーラーから聞いて知っていた。 また、設計ミス判明以前に 私が相談部に出した手紙が、ホンダ側に残されているとのことであった。 その手紙は、私がバッテリーが上がり易い原因を調べていて その過程で出てきた疑問を相談部に質問したものである。 その手紙を見れば、私の苦労が分かってもらえるはずであった。


■ 2回目の話し合い (1) − 人の苦労を見ようとしないホンダ

その次にホンダ側担当者と会ったのは、12月16日のこと。
この時、設計ミスを見付けてもらったお礼ということで、5万円の商品券を差し出された。

5万円ということは、充電器やテスター等の実費を差し引くと、私が費やした労力や時間が 2、3万円との評価である。 その評価の低さに 私は愕然とした。 直接的には金額が少ないということであるが、苦労や負担が正当に評価されなかったことが不満であった。

クローセンシステムの件では合計200時間程費やした旨、手紙の中で伝えてあったが、ホンダは その200時間を数万円程度の価値と評価したわけである。 ホンダ側に100パーセントの落ち度があるにもかかわらず、ユーザーの時間を 1時間当たり百数十円としか見ないのである。

ところで、ガラの悪い人が金銭を要求する場合、些細なことを大げさに騒ぎ立て 「誠意を見せろ」と迫ることがある。 しかし、私の場合、実際に数万円程度では済まない負担があったことは 第三者にも分かって頂けると思う。

クローセンシステムの設計ミスは 絶縁すべきところを絶縁し忘れるというもので、一旦分かってしまうと 単純なミスと言えるかもしれない。 しかし、それが分かるまでには苦労がある。
そもそも メーカーの設計や品質検査の担当者全てが見落としたミスであり、市場に出てからも1年以上誰にも気付かれることがなかった。 ただの素人が書物を調べ測定器を購入し、試行錯誤しながら設計ミスにたどり着くには、それ相当の労力と時間が必要であろう。

その長期間、長時間の負担に対して、2万何千円との評価。 表面的には金額の多少の問題になってしまうが、心の内では 「あれだけ苦労したのに きちんと評価してほしい」という問題である。
何年も後に、自動車製造物責任相談センターの人に この話をすると、「あなたは より多くの欠陥品が販売されてしまうのを防いだのだから、本当はもっと感謝されて良いのですよ」との言であった。


■ 2回目の話し合い (2) − 泣き寝入りさせるテクニック

さて、5万円の商品券を差し出されて、私は以上のような思いを伝えた。 長期間、長時間の負担に対する対価や補償として、評価が低すぎるのではないか、と。
これに対して 担当者のA氏が言った言葉は、今も忘れられない。

「そんなに補償して欲しいのなら、何月何日、何時から何時まで どんな作業をしたのか、資料を出して下さい。」

10ヶ月以上も前のことについて、何月何日、何時から何時まで どのような負担があったのか、全て列挙しなさい、ということだった。
私は面食らってしまったが、もう一人の担当者B氏も驚いた様子で、あわてて発言を制止する素振りを見せていた。

私は最初 A氏の言葉は失言かと疑ったが、決してそうではなかった。 例えば、私が何度もディーラーに相談に行っていたことを、A氏はディーラーから聞いて知っていたが、それでも、「その日時を特定して下さい」と求めてきた。

1年9ヶ月前にバッテリー上がりを起こして後、10ヶ月前にその原因を解明できるまでの間、どのような事柄に どの程度の時間費やしたかの記憶はあった。 その記憶を元に200時間という概数を出したのであるが、日時を正確に特定するのは無理であった。

当時の状況はと言えば、バッテリーが上がり易いのにディーラーには相手にされずの困った状況で、仕方なく自分で原因を調べていた。 時間を見つけて車の電気関係を調べたりしていたが、日々の詳細な記録など いちいち残してはいない。
それを知りながらA氏が要求したことは、「10ヶ月以上前のことであっても、何月何日、何時から何時まで どんな作業をしたのか、資料を出せ」だった。

このような嫌がらせにも似た要求をされるのであれば、10ヶ月前、ホンダが設計ミスを認めた時点で 補償を求めておくべきであった。 当時なら記憶も新しく、多くのメモ類も残されていた。
当時 補償も求めず一言の苦情も言わなかったのは、温情や好意からであった。 しかし、今となっては その好意的な対応がアダとなってしまった。 好意的に対応したことを逆手に取られ、後悔することとなった。

もちろん、ホンダ側は、私が相当な労力や時間を費やしていたのを 知らなかったわけではない。 ディーラーから話を聞いていたし、設計ミス判明以前に相談部に出した手紙も読んでいた。 また、常識的に考えても、ただの素人がクローセンシステムの設計ミスにたどり着くのは 容易でないことは分かる。
私は、ホンダに対して、その辺りのことを考慮して 補償なり迷惑料なりの額を見積もってもらうことを希望した。 しかし、ホンダ側に譲歩はなく 全ての日時の特定を要求した。

製品の欠陥によってユーザーに迷惑をかけておきながら、ホンダの態度は横柄だった。 自らには甘く 欠陥製品を放置しているというのに、ユーザーには不可能なまでに厳しい要求を突き付けるのである。
自らは責任を果たさなくても良く、相手には無理難題を課する。 あまりに露骨なダブルスタンダード、身勝手にすぎる対応で、とても納得できる話ではなかった。

とは言うものの、私には対抗できるだけの力も手段もなかった。
今なら、ネット告発が少しは対抗力になるかもしれない、或いは、1998年に導入された少額訴訟をおこす手もある。 しかし、当時は ユーザーや消費者は企業の横暴の前に無力で、ほとんど泣き寝入りする他ない状況だった。

ところで、少額訴訟と言えば、しばらく前に おもしろい新聞記事を見つけた。 それは、「ある消費者が食品の中に異物を見つけ、メーカーに連絡したところ、電話の対応だけで済まされたことに不満を持ち、少額訴訟を起こして、5万円の判決を勝ち取った」というもの。
私はこの記事を読んで、思わず自分の場合と比べてしまった。 たまたま食品の中に異物を見付けるのと、苦労を重ねて車の装置の設計ミスを見付けるのと、どちらも同じ5万円の評価なのか、と。 しかも、私の場合、充電器やテスター等に出費もしているし、バッテリー上がりの実被害もある。
ホンダが下した5万円という評価が いかに低いものであるか、客観的に裏付けられるのである。

以上、2回目の話し合いの模様を書いてきたが、企業が巧妙に消費者を泣き寝入りさせる実例を示すこととなった。 迷惑料を支払う素振りを見せながら、不可能なまでの厳密さを要求し、結局は消費者の要求を断念に追い込むのである。


■ 3回目の話し合い (1) − 前言を翻されて

さて、話は、ホンダとの3回目の話し合いに移る。
平成4年1月14日、前回のA、B両氏と共に ホンダお客様相談部の大阪所長が、私の家に来られた。 しかし、話し合いと言うよりは、居直りに来られたというのが実情である。

まず、市場の欠陥製品をどうするかについて、ホンダ側から完全な居直り宣言があった。 A氏は、「クローセンシステムのことは欠陥とは思っていない、修理対策を取る意思もない」と、明確に言明した。
この発言を受けて、私が 「それじゃ、修理対策については これ以上話し合っても無駄なのか」と聞くと、「無駄です」との返答。 本社のサービス会議で決定された方針であり、私が何を言っても覆らないとのことであった。

仕方がないので 話題を変え、もう一つの案件 補償や迷惑料の話に移ることにした。 そこで、私が 「補償のことですが」と言いかけると、すぐにA氏が、「補償はしない、これ以上お金は出さない、そう決められている」と割って入った。 これは明確な拒否で、前回の話とは違っていた。

前回の話では、「補償して欲しいのなら、日時を特定して作業内容の資料を出せ」とのことだった。 つまり、日時を特定して作業内容の詳細を示せば、補償するとのことだった。
実は、私はこの言葉を信じて、どんな作業をどのくらいの時間したのかを 詳しくまとめ上げていた。 多くのことが正確な日時を特定できなかったが、そこのところは交渉するつもりでいた。 そして、あくまで日時の特定を求められた場合には、特定できた分だけでも補償してもらうつもりでいた。

このように準備をしていたところに、突然のA氏の発言があって、私は少々たじろいでしまった。 せっかく用意したものが無駄になるのかと思いつつ、「一体誰が お金を出さないことを決めたのですか」と聞いてはみたが、返答はなかった。 要するに、会社の方針として そう決まったのだろう。 ホンダ側の3人は、黙ったまま冷たい視線を私に向けていた。


■ 3回目の話し合い (2) − 客観的証拠も無視されて

ところで、5万円の商品券は、設計上の問題を見つけてくれた御礼という趣旨でもらったものだった。 そこで、「設計ミスによってバッテリー上がりを起こし損害を被っているが、何らかの補償はあるのか」と尋ねてみると、「何も補償しない」との返答だった。 バッテリー上がりを起こしたことを証明する JAFロードサービス書は、ホンダ側に提示してあったが、このような客観的な証拠があっても、補償もしないし、迷惑料的なものも出さないとの対応だった。

ホンダからは毅然とした態度で拒否されたが、それは、あたかも私が不当な金銭要求をしているかのようだった。
しかし、どちらが正しいかは はっきりしているはずである。 私の側では、製品の設計ミスの立証や被害の証明を提示していた。 それに対して、ホンダは補償を拒否する理由も示さず 「補償はしない」の一点張りだった。 推測するに、ホンダ側には 「補償すれば欠陥を認めることになる」という思いが働いていたようである。

ホンダが、「クローセンシステムのことは欠陥ではない」と居直る以上、もしクローセンシステムによる損害や補償を認めれば、矛盾が生じることになる。 補償や迷惑料を出せば、欠陥を認めたようなものである。
従って、ホンダとしては、クローセンシステムによる損害や補償は認めない、という立場を取るほかなかった。 損害の客観的な証拠(JAFロードサービス書等)があったとしても、謝罪も償いも出来ないような状況だった。

このような事情があってのことであろう、ともかくも 「補償はしない」の一点張りで押し通して来た。 論拠の説明も無いままに、口調や態度だけは断固としていて、私が不当な要求をしているかのようだった。 或いは、話は逆で、肝心の論拠を欠く為に、防衛的に毅然を装うほかなかったと言うべきか。 まともな説明が出来ない以上、反論は許さないという雰囲気で 臨むしかなかったのかもしれない。

当然、このような対応をされれば、反発する以外にない。 客観的な証拠があるにもかかわらず、「損害を与えた覚えはない」との対応である。 製品の欠陥によって損害を受けても 謝罪もなく弁償もない。 証拠を揃え対応を求めてもクレーマー扱いされる。

お金を巡る話は 結局こんな対立状態になってしまったが、ホンダが客観的事実さえ認めない状況では まともな話し合いは不可能だった。 仕方がないので、ホンダの方には 納得できない旨伝えて 帰って頂くことになった。
こうして3回目の話し合いは終わったが、これ以降、ホンダの方が私の家に来ることはなかった。

それにしても、ホンダの横暴さには 悔しい思いをさせられた。 欠陥クローセンシステムのユーザーがバッテリー上がりを起こすことを認識しながら 修理対策を取ろうともしないし、ユーザーがバッテリー上がりを起こしても補償もしないのである。 欠陥製品をユーザーに提供しておきながら、修理もしないし被害の補償もしない。 ホンダのやりたい放題、自らは儲けるだけ儲け、全ての負担はユーザーに負わせるのである。


■ これまでを振り返って

以上に、お金をめぐる話し合いの模様を書いてきた。
表面上は金銭的な問題になってしまうが、私の中では 物事が適正に評価されるか否かの問題であった。

私は、自分自身について 金銭的なことには あまりこだわらないほうだと思っている。
もし損得にうるさい人間であれば、ホンダが設計ミスを認めた段階で 何らかの要求をしていただろう。 欠陥クローセンシステムに関しては 様々な出費や負担を強いられており、「弁償してもらえないか」と言うことも出来た。
しかし、実際には 苦情はいっさい言わず、出費や負担は自分がかぶるつもりでいた。 ホンダが 「修理対策を取る」と言っていたので、それで良しとした。

しかし、その8ヶ月後 欠陥が放置されたままであることを知り、怒りにまかせてという感じで 補償を求めた。 そして、ホンダからどのような対応を受けるに至ったかは 上に書いた通りである。


■ その後のこと − 金銭問題は切り捨てる

さて、最後の話し合いの後 どうしたかと言えば、私は早々と補償の件は諦めることにした。
一つの理由は、たとえ相手に非があるとしても 金銭的なことでゴチャゴチャしたくはない、ということ。 もう一つの理由は、欠陥クローセンシステムの修理対策の要求に専念する為である。 修理対策を要求していく上で 金銭的な問題を引きずりたくはなかった。

補償の要求は 単に私ひとりの問題であるが、修理対策の要求は ほかの何千人かのユーザーにかかわることであった。 前者の方は譲歩や泣き寝入りが出来ても、後者の方は譲れなかった。 補償の件は 「大事の前の小事」という位置付けであった。

既に書いたように、クローセンシステムの欠陥には随分苦労させられたが、同じようなユーザーは少なからずいるはずであった。 ディーラーに相談しても クローセンシステムの設計ミスは分からず、多くのユーザーが バッテリーの上がり易さに悩まされていることが推測された。 (これが単なる推測でなかったことは 月刊誌のユーザー体験談を見れば分かる)

製品の欠陥によってユーザーが困っている時、本来なら、メーカーが責任を持って対処すべきであろう。 しかし、そのメーカーが放置を決め込み ユーザーが問題を抱え続けるとなると、私が何とかするほかなかった。 私自身が欠陥に悩まされて来ただけに看過できなかった。 他のユーザーの状況を何とかしてあげたいという思いがあった。

こういう事情であるから、ホンダから話し合いを打ち切られたとしても、修理対策の要求をやめる気はなかった。 ホンダに嫌がられても 修理対策を求めていくつもりであった。 しかし、同時に補償も要求し続けることには ためらいがあった。

話を煩雑にしない為には 肝心の要求一本に絞った方が賢明であろうし、修理対策を要求していく上で 金銭的な問題が絡むことは避けたかった。 まかり間違えば、ホンダからは 「お金目当てに製品に難癖をつけている」と受け取られかねない。 第三者に相談する場合にも、金銭的な問題を抱えていれば あらぬ誤解や勘ぐりを招く恐れがある。

そういう訳で、修理対策の要求に専念し あらぬ誤解を避ける為、補償の要求は切り捨てることにした。
しかし、断念するにしても ただ断念してしまうのは面白くなく、簡単な交換条件をつけることにした。 「充電器、テスター、比重計を買い取ってくれるなら」といった条件である。
これらの物品は、設計ミス判明後は必要のないもので 物置でほこりをかぶっていた。 また、領収書が残っていたので 金額でもめることもなかった。

平成4年2月5日、ホンダ担当者宛に手紙を書いた。 充電器等の代金16907円を支払ってくれるのなら、補償の件は終わりにしようという文面である。
これに対して、3月18日、ホンダアクセスから私の銀行口座に16907円の振込みがあった。
それを受けて、3月22日、充電器、テスター、比重計を ホンダ大阪相談部担当者宛に宅配便で送った。

この担当者には はがきを出し、補償の件は終わりにするが修理対策は要求し続ける旨を伝えた。
こうして ホンダとの間で金銭的な問題は終わった。

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