欠陥を巡るホンダの対応

 

 

平成3年2月、クローセンシステムに設計ミスのあることを ホンダに知らせた。 ホンダ側もミスを認め、「既に販売された欠陥製品に対して 何らかの修理対策を取る」との言明があった。

しかし、その8ヶ月後、全く放置されていることが判明。
抗議の手紙を出すと、11月16日 下の名刺のA、B両氏が 書記役の方と共にやって来た。

話し合いの場で、ホンダ側は、「設計ミスはあっても ユーザーに損害も迷惑も与えていない。従って、修理対策の必要はない」と主張した。 そして、私が修理対策の必要性を話すと ことごとに嘘、屁理屈を浴びせ掛けた。
しかし、私自身が実際にバッテリー上がりを起こし、バッテリーの上がり易さに悩まされたのは事実である。 同様のユーザーが数多くいるはずで、放置することには納得できなかった。

12月16日、A、B両氏が再びやって来た。
彼等が言うには、「クローセンシステムに設計ミスのあることを 販売店に通知しました。この措置で納得して下さい」とのことであった。
両氏が帰った後、ホンダ販売店に何軒か問い合わせてみた。 しかし、クローセンシステムの設計ミスについて知っている店は出て来なかった。

担当者では埒があかないので、社長宛に手紙を書き、修理対策を取るべき旨を訴えた。
その手紙は相談部に回され、平成4年1月14日 大阪相談部の所長がA、B両氏と共にやって来た。

しかし、彼等が言ったことは、「クローセンシステムのことは欠陥とは思っていない。修理対策を取る意思もない」という完全な居直りであった。 本社のサービス会議の決定であり、私が何を言っても無駄、これ以上話し合いに応じない旨通告された。

二週間ほどして 私は消費者センターに話を持ち込み、ホンダへの働きかけをお願いした。
何日かしてセンターから報告を受けたが、とんでもない話を聞かされた。 ホンダ側はセンターに出向き、「クローセンシステムの不具合については 既に修理対策を取ってあり 問題は解決済み」との説明を行っていた。

4月になって ある自動車評論家の方に相談したところ、修理対策を取るようにホンダへ働きかけて下さることになった。
それによって対策が取られることになり、ホンダ側から下の書面が送られてきた。 ( 書面はワープロ打ちで印鑑も押されていないので封筒を添えた。 なお、この書面は月刊誌に掲載された。)

しかし、市場措置の内容はと言えば、「お客様が販売店に来場された機会をとらえ、当該クローセンシステム(リア)が装着されている車に対して、暗電流防止の処置を講じる」だけのことである。

ずさん極まりない措置であることは明らかである。 欠陥クローセンシステムが修理されるとしても、偶然販売店に来たものだけが対象とされる。 修理は、たまたま販売店に来ることが前提なのである。 さらには、たまたま販売店にやって来たとしても 外見上全く分からないのである。 下の画像はクローセンシステム装着車であるが、センサー類はバンパー内側に取り付けられる為 全く気付かれることはない。

さらに言えば、後に判明したところでは、販売店には虚偽説明がなされているのである。 「販売店に確実に本件の内容を伝えるために販売店まで用品サービスニュースを発行した」と記されているが、クローセンシステムの設計ミスは伝えられてはいない。 設計上のミスにより全ての製品で電気が流れ放しになっている事実は隠され、リレー(スイッチ)の故障によって電気が流れ放しになることがあると伝えられたのである。
このような軽微な問題にすり替えられれば、まともな市場措置など期待すべくもないであろう。

結局のところ、上の書面の措置では、針の穴を通って来たものだけが修理され、ほとんど全ては修理されないままに終わる。 ただの見せかけの措置であり、実質上は放置と言って良い。 「対策は取ってある」と言い訳する為だけの措置、放置をカムフラージュする為の措置である。

このような欺瞞的な措置であるにもかかわらず、書面の末尾 「○○様のご理解を頂けるものと確信しております」と胸を張る。
書面には 話し合いが3度なされたことが記載されているが、ホンダ側がどれほど酷い話を繰り広げていたか、想像がつくであろう。

さて、実は その当時、ある月刊誌の記者から クローセンシステムの問題を記事にしたいという申し出を受けていた。 渡りに船のような申し出であったが、ずっと保留扱いとしていた。
しかし、ホンダ側からの書面に落胆し、掲載をお願いすることにした。 こうして、クローセンシステムの問題が平成4年11月号(9月26日発売)の記事となった。

  

記事が掲載されて、ホンダ側も 「誤魔化しきれない」と判断したようである。
11月号発売の翌日に ホンダに問い合わせると、「設計ミスの製品に対して改善対策を取る」との表明があった。 改善対策とは、リコールと同様、ユーザーに連絡をして無償修理するものであり、私としては一件落着との思いであった。
それにしても、問題が公になった時の ホンダの豹変振りには驚かされた。 企業の表裏を露骨に見せられることになった。

また、この時期、ホンダは運輸省(国土交通省)に報告を上げ、市場措置を取る旨を伝えている。 このことは、ずっと後の平成13年1月 国土交通省からのメールで知った。

    

このように、月刊誌11月号によって事態は急転したが、その2ヶ月後、平成5年1月号でも クローセンシステムの問題が取り上げられた。

この号では、二人のユーザーの体験談が掲載されている。
ふたり共、11月号の記事を見る以前、バッテリーの充電不足をディーラーに相談していた。 しかし、クローセンシステムの欠陥は分からず、バッテリーの問題として片付けられていた。 ひとりは、何度も相談に行き バッテリーの買い替えを勧められる状況にあった。 しかし、共に、11月号の記事を見て欠陥の事実を知ることになった。

ふたりは、たまたま記事を見た為に修理を受けることが出来た。 記事を見なければ、バッテリー上がりを心配しながら車を使い続けることになった。
クローセンシステムの大多数のユーザーは記事など見なかったはずであり、これらのユーザーの為に きちんとした修理対策は当然に必要であった。

1月号の発行の後、私はホンダ相談部に電話をして、「改善対策の話は どうなっているのか」を尋ねた。 対応に出たのは 先のA氏であったが、「現在、クローセンシステムの購入者をリストアップしています」との返答であった。


それから数年が過ぎ、実際には改善対策が取られていないのを知ることになった。
平成8年5月のこと、クローセンシステムの設計ミスに対して どのような対策が取られたのか、自動車製造物責任相談センターに調べてもらうことになった。 そして、5月13日 A氏から電話があり、「クローセンシステムに関しては、不具合についての情報を販売店に流す以上のことはしていない」との言明があった。(注)
相談センターは、この問題をインターネットで公開するように強く勧めた。

6月の下旬には国民生活センターに相談した。 一連の出来事を書面にして雑誌の記事と共に送った。
7月9日にセンターから電話があり、「ホンダに問い合わせを行い、事実関係を確認しましたので 警鐘を鳴らす意味でクローセンシステムの問題を公表することも出来ます。」とのことであった。

国民生活センターといい、自動車製造物責任相談センターといい、誰の目にもホンダの非は明らかである。
製品の欠陥を知りながら、自らの利益と保身しか考えず ユーザーの被害に知らぬ顔を通す。 表では顧客重視が謳われていても、客が所詮はカモでしかないことを思い知らされるのである。


(注)
このホームページ開設後に判明したことを書いておく。 「クローセンシステムの不具合について販売店に情報を流した」と言っても、ホンダは設計ミスの事実を販売店に伝えてはいない。 設計ミスにより全ての製品で電気が流れ放しになっている事実を隠し、単にリレー(スイッチ)の故障により電気が流れ放しになることがあるという軽微な問題にすり替えていたのである。
最後の最後まで、設計ミスは販売店にもユーザーにも伝えられず、まともな市場措置が取られることもなかった。

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