クローセンシステムの設計ミス

 

 

今日、多くの車に障害物感知装置(接近感知装置)が取り付けられている。 今では、ほとんどのセンサーが超音波を使っているようであるが、クローセンシステムでは静電容量方式が採用されている。
その基本原理については、取扱説明書の中に説明があり、その部分を掲載させて頂く。

この方式では、説明やイラストにあるように、バンパーの内側にセンサー(電極線)がセットされる。 下の画像は その実際の写真であり、センサー(電極線)がバンパー内面に貼り付けられているのが分かる。

  

上の画像の中で、樹脂バンパーの内側にある 黒い金属の骨格のようなものが、バンパービームである。 そして、バンパービームの中央部に取り付けられている 黒い板状のケース、これがクローセンシステムのECU( Electronic Control Unit )である。 内部には電子部品が収められており、クローセンシステムにとって要となる装置である。

設計ミスというのは、極めて単純な話で、このECUが絶縁なしにバンパービームに取り付けられることである。

ECUの黒い板状の筐体(ケース)、これは電子部品を収めるケースであると同時に、実は、センサーの一部でもある。 電極としての役割も持っており、内部の電子回路を経て バッテリーのプラス端子につながっている。
もし、このECUケースが 車のボディに接触すればどうなるか。 車のボディはバッテリーのマイナス端子につながっている為、ECUは作働状態になる。

下図のように、元々の設計意図は エンジンがかかっている時にECUが作働することであり、その為のスイッチが回路に組み込まれている。 しかし、実際には ECUは絶縁なしにバンパービーム(ボディ)に取り付けられる為、ECUは常時作働状態になってしまう。 車のキーが切られていても電気は流れ放しで、当然にバッテリーは上がり易くなる。

ECU電気回路のミスの図

( 注 )

このページのクローセンシステムの画像は、全て私の修理済みのものである。 ECUケースの取り付けボルトの回りに 青や黄色のビニールテープが目に付くが、絶縁の為施したものである。
これによって一応は絶縁されたが、取り付けが甘くなってしまった。 ECUケースが二ヶ所でヒモでくくられているのは、仮にボルトが抜けても ECUが落下しないようにとの配慮である。


以下、設計ミスについて より詳しく説明する。

まず、クローセンシステムの構成部品を見ておく。 取り付け説明書の表紙に一覧が出ており、それを下に掲載させて頂く。

システムの中心になるのは、イラストの左端に描かれた、回路ユニットと呼ばれているものである。 このうち、四角い板状のものが 先のECUである。
ECU内部からは センサー(電極線)が出ているが、バンパーの内側にセットされることは、既に述べた通りである。 下の画像は ECUの近景であり、センサー(電極線)が出ているのが分かる。 ( 但し、下方向からの撮影。 電極線が出てくる側面を撮るには バンパーとバンパービームをばらす必要がある。)

ECUの外観は見ての通りであるが、筐体(ケース)は金属製で、内部には電子部品が収められている。 しかし、この金属製ケース、単なるケースというわけではない。

クローセンシステムのECUに特徴的なことは、ケースが電極としての働きを持つことである。 電子部品の容器であると同時に、センサーの一部として電極の役割も担う。
ケースからは何本もセンサー(電極線)が出ているが、ケースそのものも電極であり、内部の電子回路を経て、バッテリーのプラス端子につながっている。

どの車にしても、車のボディというものは バッテリーのマイナス端子につながっている。 従って、もし、ECUケースがボディに触れることがあれば、ECUは通電する。 バッテリープラス端子→ECU電子回路→ECUケース→ボディ→バッテリーマイナス端子、このように電気が流れることになる。
下の画像は、ECUケースがボディと接触すれば 36mA程の電流が流れることを示している。

設計ミスというのは、ECUケースを絶縁せずにボディ(バンパービーム)に取り付けるよう設計したことであり、上の画像と同じ状況になる。 ECUは常に作働状態になり 電気が流れ放しとなる。 本来、ECUは絶縁してボディに取り付けられなければならない。

本来の設計意図では、エンジンがかかっている時にだけ ECUが作働するはずであった。
その為に わざわざリレー(スイッチ回路)が組み込まれている。 リレーの役割は、エンジンがかかったことを感知して ECUのスイッチを入れ、逆に、エンジンが止まったのを感知して ECUのスイッチを切ることである。

ところが、実際には、ECUケースは絶縁なしにボディに取り付けられ、そこに電気の通り道が出来る。 リレーを迂回して電気が流れ、ECUは常に作働し続けることになる。

下の画像は トランクルーム内のリレー装置の写真であるが、設計ミスの為に この装置は不要になる。 ECUは常に作働しており、スイッチをON、OFFしても意味がないからである。 ユーザーは不要なものにお金を払い 無駄に取り付けている格好になる。 ホンダが「修理対策の必要性なし」と主張するなら リレー装置の代金をユーザーに返すのがスジであろう。

以上、設計段階で絶縁対策が忘れられたことを書いて来たが、そのことを取り付け説明書で見ておく。
下の画像は ECUケースの取り付けを説明した個所である。 ECUケースが ボルトとブラケットでバンパービームに取り付けられるのが分かる。 ボルトもブラケットも共に金属製であり、絶縁対策が全く抜け落ちている。

  

ホンダによれば、設計ミス判明後に販売されたクローセンシステムについては、バンパービームとブラケットの間に絶縁シートを挟み、ボルトを樹脂製にしたとのことである。

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